大晦日の夜、静かな空気に響き渡る「ゴーン」という鐘の音。テレビや近所のお寺から聞こえてくる「除夜の鐘」を聞くと、「ああ、今年も終わりだなあ」としみじみ感じますよね。
でも、どうして大晦日に鐘をつくのでしょうか? そして、なぜその回数は「108回」と決まっているのでしょうか?
今回は、日本人として知っておきたい「除夜の鐘」の意味や由来について、わかりやすく解説します。言葉の意味を知れば、今年の年越しはもっと心穏やかに過ごせるはずですよ。
【この記事でわかること】
- 除夜の鐘が「108回」鳴らされる本当の意味と由来
- 「108の煩悩」の具体的な内訳と私たちとの関係
- 実際に除夜の鐘を聞く・つく時のマナーと最新情報
1. 除夜の鐘とは?基本的な意味と知っておきたい由来
1-1. 除夜の鐘を鳴らす目的は何?
除夜の鐘を鳴らす最大の目的は、「一年の間に心に溜まった迷いや悪い心を払い清めて、新しい年を清らかな気持ちで迎えるため」です。
仏教では、鐘の音には苦しみを断ち切り、心を安らかにする力があると考えられています。厳しい寒さの中で響く厳かな鐘の音を聞くことで、自分自身の心を振り返り、リセットする大切な時間なんですね。
1-2. 「除夜」ってどんな意味?「大晦日の夜」との関係
「除夜(じょや)」という言葉は、普段あまり使いませんよね。これは「古い年を除く(=捨てる)夜」という意味があります。
- 除(じょ): 古いものを除く、捨てる
- 夜(や): 大晦日の夜
かつては、一年の最後の日である大晦日を「除日(じょじつ)」と呼び、その夜を「除夜」と呼びました。つまり、古い年と新しい年が入れ替わる、一年の締めくくりの夜のことです。
この特別な夜に鐘をつくから、「除夜の鐘」と呼ばれているのです。
1-3. 除夜の鐘はいつから始まったの?その歴史と変遷
除夜の鐘の風習は、日本古来のものではありません。もともとは中国の宋(そう)の時代に始まった習慣だと言われています。
日本に伝わったのは鎌倉時代とされています。当時は禅宗(ぜんしゅう)という宗派のお寺で、朝夕に鐘をついて時を知らせていた習慣が、やがて大晦日に特別な鐘をつく行事として定着していきました。
江戸時代には広く庶民の間にも浸透し、今では宗派を超えて、日本中の多くのお寺で行われる年末の風物詩となりました。
2. なぜ108回?回数に込められた深い意味と煩悩の関係
除夜の鐘といえば「108回」がお決まりですが、なぜこの数字なのでしょうか? 実はこれにはいくつかの説があります。
2-1. 煩悩とは?仏教が教える「人間を悩ませる心」
最も有名な説は、「人間の持つ108つの煩悩(ぼんのう)を消すため」というものです。
煩悩とは、私たちの心を乱し、悩ませ、苦しめる原因となる心の働きのこと。「もっと欲しい(欲)」「あいつが憎い(怒り)」「自分さえよければいい(愚かさ)」といった感情がこれにあたります。
鐘を一つつくごとに、この煩悩を一つずつ消していき、108回つき終わる頃には心が真っ白に洗われている、という願いが込められています。
2-2. 108の煩悩はどうやって決まったの?具体的な内訳
では、108という数字はどこから来たのでしょうか? 代表的な計算式である「六根清浄(ろっこんしょうじょう)」の考え方を見てみましょう。少し算数のような話になりますが、面白いですよ。
【108の計算式】
| 要素 | 数 | 意味・内容 |
| ① 六根(ろっこん) | 6 | 人間の感覚器官(眼・耳・鼻・舌・身・意) |
| ② 三つの状態 | ×3 | それぞれに「好(快感)」「悪(不快)」「平(どちらでもない)」がある |
| ③ 三世(さんぜ) | ×2 | さらに「浄(きれい)」か「染(汚れている)」か |
| ④ 時間軸 | ×3 | それらが「過去・現在・未来」にわたる |
これらを掛け合わせると…
6(感覚)× 3(状態)× 2(浄・染)× 3(時間)= 108
※計算方法は諸説あり、「6×3×2=36」を「過去・現在・未来」の3倍にして108とする説などもあります。
他にも、一年を表す「12ヶ月 + 24節気 + 72候 = 108」とする説や、「四苦八苦(4×9 + 8×9 = 108)」とする語呂合わせのような説もあります。
2-3. 108回目はいつつくの?「107回」で終わるお寺もある理由
108回の鐘は、すべて大晦日のうちに打ち終わるわけではありません。多くの寺院では、以下のようなスケジュールで鐘をつきます。
- 1〜107回目: 大晦日のうちに(年内に)つく
- 108回目: 年が明けた瞬間に(新年に)つく
これには、「今年のうちに107の煩悩を消しておき、最後の1つを新年に持ち越さないように消して、新しい年を迎える」という意味があります。
【除夜の鐘の回数とつくタイミングまとめ】
- 回数: 基本的に108回(煩悩の数)。参拝者が多い場合は108回以上つくお寺もある。
- 開始時間: 一般的には大晦日の23時30分〜45分頃から。
- 終了時間: 元旦の0時〜1時頃まで。
3. 除夜の鐘を聞く・つく時のマナーと注意点
最近では、お坊さんだけでなく一般の参拝者が鐘をつかせてもらえるお寺も増えています。貴重な体験をする際のマナーを確認しておきましょう。
3-1. 参拝者が鐘をつけるお寺はある?探し方と作法
すべてのお寺で鐘をつけるわけではありません。「除夜の鐘 つけるお寺 ◯◯(地域名)」などで検索するか、近所のお寺の掲示板を確認してみましょう。
- 整理券が必要な場合: 人気のお寺では、事前に整理券が配布されたり、人数制限があったりします。
- 有料の場合: 「志納金」として数百円〜数千円を納める場合もあります(お守りなどがもらえることも)。
3-2. 鐘をつく時の正しいマナーとお願い事の注意点
鐘をつくときは、神聖な気持ちで臨むことが大切です。以下の手順とマナーを守りましょう。
【🛎️チェックリスト:除夜の鐘を体験する時のマナー】
- [ ] 鐘をつく前に合掌する鐘に向かって一礼し、手を合わせます。
- [ ] 力任せに叩かない撞木(しゅもく:鐘をつく棒)についている紐を持ち、反動を利用して優しくつきます。
- [ ] 二度打ちは禁止一度ついた後にすぐもう一度つくのは縁起が悪いとされるので避けましょう。
- [ ] つき終わったらもう一度合掌鐘に背を向ける前に、再度一礼します。
- [ ] 「願い事」はしない?除夜の鐘は「煩悩を払う」ためのものです。「お金持ちになれますように」といった願い事をするのではなく、無心でつくのが本来の姿です。
4. 現代の除夜の鐘事情:騒音問題と新しい取り組み
伝統的な除夜の鐘ですが、最近では生活スタイルの変化により、少し様子が変わってきています。
4-1. 騒音問題やコロナ禍で「中止」になったお寺が増えた背景
近年、住宅街にあるお寺では「鐘の音がうるさい」という近隣住民からの苦情により、深夜に鐘をつくことを中止するケースが出ています。
これを解決するために、「除夕(じょせき)の鐘」といって、大晦日の昼間や夕方に時間をずらして鐘をつくお寺も増えています。これなら騒音にならず、子供やお年寄りも参加しやすいというメリットがあります。
4-2. デジタル除夜の鐘や体験型イベントなど新しい試み
また、最新技術を取り入れた新しい除夜の鐘も登場しています。
- VR除夜の鐘: 仮想空間で鐘つき体験ができるイベント。
- プロジェクションマッピング: 鐘楼(鐘のある建物)をライトアップする演出。
- ライブ配信: 遠方の人向けに、鐘つきの様子をYouTubeなどで生中継するお寺。
形は変わっても、「一年の終わりに心を清めたい」という人々の想いは変わらないのですね。
5. 【Q&A】除夜の鐘に関するよくある質問
最後に、除夜の鐘についてよくある疑問をQ&A形式でまとめました。
5-1. Q: 除夜の鐘はいつからいつまで鳴らしていますか?
A: 一般的には大晦日の23時30分頃からつき始め、年をまたいで元旦の0時30分〜1時頃に終わることが多いです。ただし、お寺によって開始時間は異なり、最近では夕方に行う「除夕の鐘」を実施するお寺もあります。
5-2. Q: 除夜の鐘がうるさいと感じた場合、どうすればいいですか?
A: 伝統行事とはいえ、深夜の音は気になるものです。もしどうしても辛い場合は、耳栓やノイズキャンセリングイヤホンを活用したり、その時間帯だけ音が気にならない部屋で過ごすなどの自衛策が有効です。お寺側も時間を早めるなどの対策を進めています。
5-3. Q: 煩悩の数「108」に具体的な内訳はありますか?
A: 代表的な説は「六根(眼・耳・鼻・舌・身・意)×3(好・悪・平)×2(浄・染)×3(過去・現在・未来)=108」という計算式です。ただし、これ以外にも「四苦八苦(4×9+8×9=108)」や「1年の暦(12+24+72=108)」など、複数の説があります。
5-4. Q: 108回の鐘を全部つかないと、ご利益はありませんか?
A: そのようなことはありません。108回というのはあくまで象徴的な数字です。たとえ自分がつかなくても、鐘の音を聞いて心を静め、一年を振り返る気持ちを持つことが最も大切です。
5-5. Q: 大晦日以外でも鐘を鳴らしているお寺はありますか?
A: はい、あります。一部の禅宗のお寺などでは、朝と夕方に時を知らせる鐘をつく習慣が残っています。また、広島の平和記念公園の鐘のように、特定の祈りを込めて毎日鳴らされる鐘もあります。
まとめ:新しい年を清らかな心で迎えましょう
除夜の鐘には、単なる年末の合図というだけでなく、「108の煩悩を払い、清らかな心で新年を迎える」という大切な意味が込められています。
記事のポイントまとめ
- 除夜の鐘は、一年の煩悩を消すための仏教行事。
- 108という数は、私たちの心の迷いや苦しみの数を表している。
- 聞くだけでも効果はあるが、つく時は感謝と反省の心で。
今年の大晦日は、ただなんとなく鐘の音を聞くのではなく、「一つ鳴るごとに、一つの悩みが消えていく」とイメージしてみてください。きっと、例年以上に晴れやかな気持ちで新しい年の朝を迎えられるはずですよ。
それでは、良いお年をお迎えください。

