「確認させていただき、後ほどご連絡させていただきます」
メールやチャットで文章を作っていて、ふと手が止まることはありませんか? 「あれ? なんだか『させていただきます』ばかり使っている気がする……」と。
とても丁寧な言葉のはずなのに、なぜか読み返すとまどろっこしい。かといって、シンプルに言い切るのも「冷たいかな?」と不安になってしまう。そんな「させていただく迷子」になっている方が、実はとても多いのです。
でも、安心してください。 「させていただく」を正しく使うためのルールは、実はたった2つしかありません。
この記事では、編集者として言葉に向き合ってきた私が、以下の3つのポイントをわかりやすく解説します。
- 「させていただく」を使っていい「2つの条件」
- ついやってしまう「NGパターン」と解決策
- 明日から使える「大人の言い換え」テクニック
この記事を読み終える頃には、もう「この敬語で合ってるかな?」と迷う時間はゼロになります。 自信を持って、あなたらしい温かい言葉を届けられるようになりましょう!
「させていただく」を使っていいのはどんな時? 2つの絶対ルール



「させていただく」は、実はここ数十年の間に爆発的に使われるようになった、比較的新しい敬語表現です。みんなが使い始めたからこそ、正しいルールの線引きが曖昧になりがち。まずは基本の「型」を覚えましょう!
文化庁の「敬語の指針」では、この言葉を使っていいのは以下の2つの条件を「両方とも」満たす時だけとされています。
難しい文法用語は抜きにして、イメージで掴んでみましょう。
ルール1:相手の「許可」が必要なとき
1つ目の条件は、「相手のお許しがないと、それをやっちゃいけない時」です。
想像してみてください。相手の持ち物を使ったり、相手の時間を奪ったりするとき、無言でやる人はいませんよね? 必ず「やってもいいですか?」と確認するはずです。
- 相手の時間を奪うとき(説明する、訪問するなど)
- 相手の持ち物に触れるとき(借りる、コピーするなど)
- 相手のプライバシーに関わるとき(撮影する、録音するなど)
これらはすべて、相手の「許可」が必要です。
ルール2:その行動で自分が「恩恵(メリット)」を受けるとき
2つ目の条件は、「それをすることで、自分にとって嬉しいことがある時」です。
これは「おかげさまで助かります」「嬉しいです」という感謝の気持ちが含まれているかどうか、と言い換えられます。
- 休ませていただく(=休めて嬉しい、体が楽になる)
- 資料を送らせていただく(=読んでもらえてチャンスになる)
- 勉強させていただく(=知識が増えて自分が成長できる)
【図解イメージ】この2つが揃わないと「変な日本語」になります
大切なのは、この「許可」と「恩恵」がセットになっていることです。 どちらかが欠けていると、相手に違和感を与えてしまいます。
| パターン | 具体例 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 許可あり × 恩恵あり | 「本日、早退させていただきます」 | ◎ 正解 | 上司の許可が必要で、帰れる自分も嬉しいから。 |
| 許可なし × 恩恵あり | 「本日、卒業させていただきます」 | △ 違和感 | 卒業は学校の認定であり、個人の許可を得てするものではないから。(「卒業いたしました」が自然) |
| 許可なし × 恩恵なし | 「本日、傘を持参させていただきます」 | × 不要 | 自分の傘を持っていくのに誰の許可もいらないし、特別な恩恵もないから。(「持参いたします」でOK) |
よくあるNGパターン! それ、「させていただく」必要ありません



ここが一番の悩みどころですよね。「間違ってはいないけど、なんか変」と感じる文章の正体は、だいたい以下の3パターンに当てはまります。
ルールがわかったところで、ついやってしまいがちな「使いすぎ」のケースを見ていきましょう。これらを避けるだけで、文章がグッと洗練されますよ。
1. 自分の都合でやることに許可はいらない(宣言系)
自分の意志だけで完結する行動にまで、いちいち「許可」を求めていませんか?
- NG: 「後ほどご連絡させていただきます」
- NG: 「私が担当させていただきます」
これらはビジネスシーンでよく聞きますが、厳密には「連絡する」「担当する」のは業務の一環であり、本来は相手の許可をいちいち取るものではありません。 あまりにへりくだりすぎると、「自信がないのかな?」と思われてしまうことも。
- OK: 「後ほどご連絡いたします」
- OK: 「私が担当いたします」
これだけで十分に丁寧ですし、プロフェッショナルな印象を与えられます。
2. 「二重敬語」になっていませんか?
丁寧にしなきゃ!と焦るあまり、敬語を重ねすぎてしまうケースです。
- NG: 「拝見させていただく」
- 「拝見する」だけですでに謙譲語(へりくだる言葉)です。これに「させていただく」を足すのは、砂糖入りのコーヒーにさらに砂糖を入れるようなもの。
- OK: 「拝見します」または「拝見いたします」
- NG: 「伺わせていただく」
- 「伺う(行く)」も謙譲語です。
- OK: 「伺います」
3. 「させていただく」の連発(一本調子な文章)
これが「させていただく症候群」の正体です。 一つの文章の中に何度も出てくると、読み手はウンザリしてしまいます。
- NG: 「資料を送付させていただきましたので、確認させていただきたいのですが、お電話させていただいてもよろしいでしょうか?」
- 息苦しいですよね……!
- OK: 「資料をお送りいたしました。ご確認いただきたい点がございますので、お電話してもよろしいでしょうか?」
メリハリをつけるコツは、「本当に許可が必要な1回だけ」に絞ることです。 この場合、一番許可が必要なのは「電話をして相手の時間を奪うこと」ですよね。それ以外はシンプルに言い換えましょう。
脱・初心者! 「させていただく」を卒業する「言い換え」リスト



「させていただく」を減らすと冷たくなる気がする……。その不安を消す魔法の言葉が「いたします」です。これ一つ覚えるだけで、メール作成のスピードが倍になりますよ!
ここでは、つい口に出てしまう「させていただく」を、スマートな大人の日本語に変換するテクニックを紹介します。
1. 万能選手「〜いたします」を使おう
最も使いやすく、間違いがないのが「〜いたします」です。 「させていただく」ほど卑屈にならず、「します」ほどカジュアルすぎない。絶妙な距離感を保てます。
- 検討させていただきます
- → 検討いたします(これだけで十分誠実です)
- 参加させていただきます
- → 参加いたします(「出席します」でもOK)
- 案内させていただきます
- → ご案内いたします(「ご〜いたします」にするとより丁寧!)
もし「少し冷たいかな?」と感じる場合は、前にクッション言葉を添えましょう。
- 「恐れ入りますが、辞退いたします」
- 「喜んで、参加いたします」
これで温かみもバッチリです。
2. シンプル・イズ・ベスト「〜ます」「〜です」
意外と見落としがちなのが、普通の「です・ます」です。 特に自己紹介や挨拶では、シンプルさが自信の表れになります。
- 司会を務めさせていただきます、鈴木です
- → 司会を務めます、鈴木です
- 担当させていただきます
- → 担当の〇〇です
3. 相手を主語にするともっと素敵(〜ください)
「私が説明させていただきます」と言うよりも、相手の行動にフォーカスすると、気が利く印象になります。
- 説明させていただきます
- → 資料をご覧ください
- 案内させていただきます
- → こちらへどうぞ
意外と知らない? 漢字の「させて頂く」は間違いです



パソコンで変換すると漢字が出てきちゃいますよね。でも、実はこれ「罠」なんです。プロのライターは必ずここをチェックしています。
メールで「させて頂く」と漢字で書いていませんか? 実はこれ、公用文のルールでは間違いなんです。
「補助動詞」はひらがなで書くのがルール
日本語には、「動詞の後ろにくっついて意味を添える言葉(補助動詞)」はひらがなで書くというルールがあります。
- 「読む」+「させていただく」
- ここでの「いただく」は、「食べる・もらう」という意味ではなく、ただの敬語のパーツ(補助動詞)です。だからひらがなが正解。
迷ったら「ひらがな」がやわらかい印象で安全
- 漢字の「頂く」を使う時
- 「お土産を頂く」(もらう)
- 「食事を頂く」(食べる・飲む)
- ひらがなの「いただく」を使う時
- 「ご覧いただく」
- 「お越しいただく」
- 「させていただく」
漢字が続くと文章が黒っぽくなり、読む人に堅苦しい印象を与えます。「ひらがな」にするだけで、文面がパッと明るくなり、親しみやすさが生まれますよ。
【シーン別】そのまま使える! OK・NG例文集
明日からのメールですぐに使えるよう、よくあるシーンごとに正解例をまとめました。
| シーン | よくあるNG(使いすぎ・誤用) | スマートな言い換え(OK例) | 解説 |
|---|---|---|---|
| 資料送付 | 「資料を送付させていただきます」 | 「資料をお送りいたします」「資料を送付いたします」 | 相手の許可は不要な業務連絡なので、シンプルに。 |
| 返信 | 「折り返しご連絡させていただきます」 | 「折り返しご連絡いたします」 | 相手を待たせるので「いたします」とキッパリ伝える方が信頼されます。 |
| 依頼 | 「確認させていただいてもよろしいでしょうか」 | 「ご確認いただけますでしょうか」「ご確認をお願いいたします」 | 自分が「確認する」のではなく、相手に「確認してもらう」形にするとスムーズ。 |
| 挨拶 | 「ご挨拶させていただきます」 | 「ご挨拶申し上げます」「一言ご挨拶いたします」 | 「申し上げます」を使うと、格式高い大人の表現になります。 |
| お断り | 「今回は辞退させていただきます」 | 「今回は辞退いたします」「今回は見送らせていただきます」 | お断りはお互いの関係性に関わるので、例外的に「見送らせていただく」もよく使われます(相手の厚意への配慮)。 |
まとめ:言葉は相手への「思いやり」から
ここまで「させていただく」のルールや言い換えについて解説してきました。
- 基本は「許可」と「恩恵」の2点セット
- 迷ったら万能な「いたします」に言い換える
- 漢字ではなく「ひらがな」で書く
この3つを意識するだけで、あなたの文章は驚くほど読みやすく、洗練されたものになります。
言葉遣いで一番大切なのは、完璧な文法を守ることよりも、「相手に気持ちよく読んでもらいたい」という思いやりです。 「させていただく」を連発してガチガチになるよりも、シンプルな言葉に「ありがとうございます」などの感謝を添える方が、きっとあなたの温かさは伝わります。
ぜひ、明日からのメールで、ひとつだけ言い換えてみてください。 その小さな変化が、あなたの印象を大きく変えてくれるはずです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「早速ですが〜させていただきます」は間違いですか?
A. よく使われる表現ですが、厳密には「許可」が必要ない場面なら「早速ですが〜いたします」の方がスマートです。ただ、慣用句として定着しているので、目上の方へのメールで使っても「失礼」と思われることはまずありません。
Q2. 上司に対して「〜いたします」だと偉そうに見えませんか?
A. 心配無用です!「いたします」は「する」の丁寧語+謙譲語なので、十分な敬意が含まれています。もし素っ気なく感じるなら、「喜んで〜いたします」「責任を持って〜いたします」のように、ポジティブな言葉を前に足してみましょう。
Q3. 結婚式のスピーチで「僭越ながら〜させていただきます」と言うのは?
A. これはOK(正解)です! スピーチは聞き手の時間を奪う行為(許可)であり、話す機会をもらえること(恩恵)でもあるため、条件に当てはまります。定型句として自信を持って使ってください。
Q4. 「させていただきたく存じます」は二重敬語ですか?
A. いいえ、二重敬語ではありません。「させて(使役)」+「いただく(謙譲語)」+「たい(希望)」+「存じます(思うの謙譲語)」という組み合わせなので文法的に正しいです。 ただ、非常にまどろっこしいので、「〜したく存じます」や「〜したいと存じます」と言い換える方が、相手に用件がスッと伝わります。

