電話でお客様と話しているとき、ふと言葉に詰まることはありませんか?
「ええと、当社の担当者が…いや、弊社の担当者が…?」
受話器を持ったまま一瞬フリーズしてしまい、変な汗をかいた経験、私にもあります。 新入社員の方はもちろん、ベテランのビジネスパーソンでも、ふとした瞬間に「あれ、今の場面はどっちが正解だったっけ?」と迷うことは意外と多いものです。
でも、安心してください。 「弊社・当社・自社」の使い分けは、「相手が誰か(社外か社内か)」 というたった一つのルールさえ押さえておけば、もう二度と迷うことはありません。
この記事では、言葉のプロである編集部が、以下のポイントをわかりやすく解説します。
- 一目でわかる! 3つの言葉の「使い分け早見表」
- 「弊社」を使うべき具体的な相手とシチュエーション
- 転職活動の面接で「弊社」と言うと落ちる理由
明日からは、どんな場面でも自信を持って「うちの会社」のことを呼べるようになりましょう!
【10秒で解決】「弊社・当社・自社」使い分け早見表
まずは結論から。忙しい方のために、3つの言葉の違いを一目でわかる表にまとめました。 この表さえ頭に入っていれば、基本はバッチリです。
一目でわかる比較リスト
| 呼び方 | 読み方 | 意味・ニュアンス | 使う相手・シーン |
|---|---|---|---|
| 弊社 | へいしゃ | 【謙譲語】自分を低くして、相手を立てる | 社外の人(取引先・お客様) |
| 当社 | とうしゃ | 【丁寧語】丁寧、または中立・対等な立場 | 社内の人(上司・会議)公的な場(報道・就活説明会) |
| 自社 | じしゃ | 【単語】客観的な区別。「他社」の対義語 | 説明・分析(自社製品、自社ビルなど) |
なぜ使い分ける必要があるの?
「全部『うちの会社』でいいじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、ビジネスマナーの基本は「ウチ(身内)」と「ソト(他人)」を区別することにあります。
- 相手が「ソト(お客様)」の場合
- 自分たち(ウチ)を一歩下げて「弊社」と言うことで、相手への敬意(リスペクト)を表します。
- 相手が「ウチ(社内)」の場合
- 身内にへりくだる必要はないので、フラットに「当社」を使います。
この使い分けが自然にできると、「お、この人はビジネスマナーをしっかり理解しているな」という信頼感につながりますよ。
1.「弊社(へいしゃ)」= 相手を立てる「謙譲語」
もっとも頻繁に使い、そしてもっとも間違いやすいのがこの「弊社」です。
意味とニュアンス
「弊社」の「弊(へい)」という漢字には、「破れている」「ボロボロの」という意味があります。つまり、自分の会社をあえて「ボロボロの会社(つまらない会社)」と呼ぶことで、相対的に相手の立場を高める「謙譲語(けんじょうご)」 です。
「つまらないものですが…」と言ってお土産を渡す日本的な奥ゆかしさと同じ感覚ですね。
使う相手・シチュエーション
「社外の人」に対して話すときは、基本的にすべて「弊社」を使います。
- 相手: 取引先、クライアント、お客様、株主など
- 場面: 商談、営業メール、電話対応、クレーム対応
会話での具体例(OK / NG)
【OKな例】
(取引先との電話で) 「その件につきましては、一度持ち帰って弊社社内で検討いたします。」
(お客様へのメールで) 「平素は弊社製品をご愛用いただき、誠にありがとうございます。」
【NGな例】
(社内の会議で) 「今回のプロジェクトですが、弊社の売上目標は……」
解説: 社内の人(上司や同僚)に向かってへりくだる必要はありません。身内同士の会話で「弊社」を使うと、「よそよそしい」「誰に対して媚びているの?」と違和感を与えてしまいます。
「弊社」の連呼に注意! 文章の中で「弊社は〜、弊社としましては〜、弊社の強みは〜」と何度も繰り返すと、少し「くどい」印象を与えてしまうことがあります。
2回目以降は「私ども」と言い換えると、スマートで柔らかい印象になりますよ。
- 例:「弊社の新サービスをご案内します。私どもが自信を持ってお届けするのは…」
2.「当社(とうしゃ)」= 威厳と事実を伝える「丁寧語」
「当社」は、「当(この・私共の)」会社という意味です。ここにはへりくだる意味はなく、「丁寧」または「事実を淡々と伝える」 というニュアンスになります。
意味とニュアンス
自分の会社を卑下することなく、相手と対等な立場、あるいは客観的な視点で話すときに使います。自信を持って「私たちの会社は!」と伝えたい場面に適しています。
使う相手・シチュエーション
大きく分けて2つのパターンがあります。ここが少しややこしいので、しっかり整理しましょう。
パターンA:社内の人に向けて(基本)
社内メール、会議、プレゼン、朝礼など、身内同士の会話では「当社」が正解です。
パターンB:社外だけど「公式な発信」のとき(応用)
ここがポイントです! 社外向けであっても、「会社としての公式見解」や「事実」を堂々と伝える場面では、あえてへりくだらずに「当社」を使います。
- 就職活動の説明会(学生に対して会社の魅力をアピールするとき)
- プレスリリース(新商品やニュースを発表するとき)
- 会社案内のパンフレット(「企業理念」や「沿革」など)
- 不祥事のお詫び(事実関係を冷静に報告するとき ※謝罪の言葉は「弊社」を使うことも)
会話での具体例(OK / NG)
【OKな例】
(社長の年頭挨拶で) 「当社の今年の方針を発表します。」
(就活生への説明会で) 「当社は、業界No.1の技術力を持っています!」
解説: ここで「弊社(つまらない会社)」と言ってしまうと、「そんなつまらない会社に入りたくないよ…」と学生に思われてしまいますよね。自信を持ってアピールすべき場では「当社」が正解です。
【NGな例】
(お客様への謝罪で) 「当社の規定では、返品は受け付けておりません。」
解説: 間違いではありませんが、クレーム対応などのデリケートな場面で「当社」を使うと、「こちらのルールが絶対だ!」という強く冷たい印象(上から目線)を与えてしまうリスクがあります。相手の感情に配慮するなら、「弊社といたしましても心苦しいのですが…」と寄り添う表現の方がベターです。
3.「自社(じしゃ)」= 客観的に区別する「単語」
3つ目の「自社」は、敬語ではありません。あくまで「他社(よその会社)」と区別するための客観的な単語です。
意味とニュアンス
「自分の会社」という事実を指すだけで、そこに「へりくだり」や「丁寧さ」といった感情は含まれません。そのため、単体で使うよりも、他の言葉とくっついた「複合語」として使われることがほとんどです。
よく使うフレーズ集
以下のような言葉は、すべて「自社」を使います。「弊社ビル」や「当社株」とはあまり言いません。
- 自社ビル
- 自社株
- 自社製品
- 自社サイト
- 自社開発
会話での具体例
(競合分析の会議で) 「他社の製品と比較して、自社製品の強みはコストパフォーマンスにあります。」
解説: ここでは「客観的な分析」をしているため、感情を含まない「自社」がもっとも適切です。
【シーン別】もう迷わない!実践トレーニング
基本を理解したところで、実際に迷いやすいシーンでの正解を見ていきましょう。
【メール】初めての取引先へ送る場合
営業メールや挨拶メールでは、相手を立てるのが基本です。
- 正解: 「弊社」
- 文面例: 「突然のご連絡失礼いたします。弊社の新しいサービスをご紹介したく〜」
【面接】ここが落とし穴!転職活動での正解
転職活動中、面接官(御社)に対して、今自分が勤めている会社のことを何と呼びますか? ここ、実は多くの人が間違えるポイントです。
- 間違い: 「弊社では、リーダーを務めており…」
- 正解: 「現職(げんしょく)」または「現在の勤務先」
- ※すでに退職している場合は「前職(ぜんしょく)」
理由: 面接には、あなたは「会社の代表」として来ているわけではなく、「個人」として来ていますよね。応募先の企業に対して、今の会社を「弊社(私たちの会社)」と呼んでへりくだる必要はないのです。 ついつい癖で「弊社」と言ってしまいがちですが、面接では「現職」を使うのがマナーです。
【プレゼン】「弊社」と「当社」を混ぜる高等テクニック
社外プレゼンでは、文脈によって使い分けると説得力が増します。
- 冒頭の挨拶(謙虚に):
- 「本日は弊社のプレゼンテーションにお越しいただき…」
- 実績のアピール(堂々と):
- 「ご覧ください。これが当社独自の技術です!」
このように、「挨拶は低姿勢(弊社)、中身は自信満々(当社)」 というギャップを作ることで、信頼感と期待感を同時に演出できます。
【社内チャット】SlackやTeamsでは?
最近増えているチャットツール。「当社」だと少し堅苦しいですよね。
- 正解: 「自社」や「ウチ」でもOK
- 文面例: 「競合のA社が値上げしたらしいけど、自社(ウチ)はどう対応する?」
社風にもよりますが、スピーディーなやり取りが求められるチャットでは、意味が通じれば多少崩した表現でも問題ありません。
その他の表現(わが社・小社・貴社・御社)
「わが社」は誰が使う?
テレビドラマの社長が「わが社の運命は…!」と言っているのを聞いたことがありませんか? そう、「わが社」は社長や役員など、トップに立つ人が、社員に向けて帰属意識を高めるために使う言葉です。一般社員が使うと偉そうに聞こえるので避けましょう。
「小社(しょうしゃ)」は使わない方が無難
「弊社」と同じくへりくだる言葉ですが、「小さい会社」という意味が含まれます。 現代ではあまり使われませんし、大手企業が「小社」と言うと「あんなに大きいのに嫌味か?」と取られかねないので、「弊社」で統一するのが無難です。
相手の会社は「御社」か「貴社」か
自分の会社の呼び方だけでなく、相手の呼び方もセットで覚えましょう。
- 話し言葉(面接・電話): 御社(おんしゃ)
- 書き言葉(メール・履歴書): 貴社(きしゃ)
「御(おん)」は音で響きが良く、「貴(き)」は「帰社(会社に帰る)」や「記者」と同音異義語が多く紛らわしいため、書き言葉専用になっています。
よくある質問(FAQ)
Q. 社内の日報に「弊社」と書いてしまいました。変ですか?
はい、少し違和感があります。社内の報告書なら「当社」と書くか、そもそも「会社」という言葉を省略してしまっても通じます。「本日の売上は〜」だけで十分です。
Q. クレーム対応の時は「弊社」と「当社」どっち?
基本は、相手に寄り添う「弊社」です。「弊社の不手際により…」と謝罪します。 ただし、理不尽な要求に対して「会社のルールとして無理です」と伝える場合は、あえて「当社の規定により」と「当社」を使って毅然とした態度を示すこともあります。
Q. 就活のエントリーシート(ES)では?
相手企業のことは「貴社」、自分のことは「私(わたくし)」です。まだ入社していないので、自分のことを「弊社」と言ってはいけません(笑)。
まとめ
最後に、もう一度ポイントをおさらいしましょう。
- 社外の人(お客様) には、へりくだって 「弊社」
- 社内の人(身内) や 公式な発表 には、堂々と 「当社」
- 他社と比較 するときは、客観的な 「自社」
もし、とっさに間違えてしまっても焦る必要はありません。 「弊社」と「当社」を言い間違えただけで怒る人は、今の時代そうそういません。
大切なのは、形式的な言葉遣いそのものよりも、「目の前の相手に敬意を持っているか(リスペクトがあるか)」 です。 その気持ちさえあれば、多少のミスはカバーできます。
さあ、明日からの電話やメールでは、胸を張って使い分けてみてくださいね!

