街中が華やかなイルミネーションに包まれ、ジングルベルが聞こえてくる季節。なんとなくウキウキしながら「クリスマス」を祝っていませんか?
「イエス・キリストの誕生日でしょ?」と思っている方も多いかもしれませんが、実は12月25日はキリストが生まれた日そのものではないという説が有力なのです。
では、なぜ世界中でこの日にお祝いをするのでしょうか? また、なぜ日本では「チキン」や「デコレーションケーキ」を食べる独自の文化が生まれたのでしょうか?
この記事では、クリスマスの意外なルーツや言葉の意味、そして日本独自の楽しみ方が定着した背景まで、わかりやすく解説します。
この記事のポイント
- クリスマスの語源:「キリスト(Christ)の礼拝(Mass)」という意味で、本来は神が人となって現れたことを祝う日。
- 12月25日の理由:キリストの正確な誕生日は不明。古代ローマの「冬至の祭り(太陽神の祝日)」を取り入れて定着したという説が有力。
- 日本の独自文化:戦後のマーケティングや高度経済成長を経て、「チキン」や「恋人と過ごす夜」という日本らしい楽しみ方が広まった。
クリスマス(Christmas)という言葉の意味と語源

「キリストのミサ」が本来の意味
「クリスマス(Christmas)」という言葉は、中世の英語である「Christ’s Mass(クライスツ・マス)」に由来しています。これを直訳すると「キリストのミサ(礼拝)」となります。
キリスト教徒にとって、イエス・キリストは「神の子」であり、人間を救う「救世主」です。クリスマスは、神が人間の姿(赤子)となってこの世に降りてきたこと、つまり「受肉(インカーネーション)」を感謝し、お祝いする日なのです。
単なる誕生パーティーではなく、「神が私たちのところに来てくれた」という奇跡を祝う、信仰に基づいた特別な日と言えます。
「Xmas」と書くのはなぜ?
街中の看板などでよく見かける「Xmas」という表記。「アポストロフィがないから間違いだ」「Xはバツ印(削除)みたいで失礼だ」という話を聞いたことはありませんか?
実はこれ、誤解なんです。「Xmas」は由緒正しい略語です。
- Xの正体:ギリシャ語で「キリスト」を意味する「Χριστός(クリストス)」の頭文字「Χ(カイ)」です。
- 歴史:古代からキリスト教徒は「X」や「XP」という記号をキリストの象徴として使っていました。
つまり、「Xmas」の「X」は英語のアルファベットではなく、ギリシャ語の「キリスト」そのものを表しています。決して「キリストを消す(抹消する)」ような意味ではないので、安心してくださいね。
「Xmas」と書くとデザイン的にかっこいい印象ですが、そこには古代ギリシャ語から続く2000年近い信仰の歴史が隠されているんですね。
12月25日はイエス・キリストの誕生日ではない?その起源

では、なぜ12月25日がクリスマスになったのでしょうか?
冬至の祭りと融合したという説
最も有力なのは、古代ローマの「冬至の祭り」を取り込んだという説です。
4世紀頃のローマ帝国では、一年で最も昼が短くなる「冬至」の時期に、盛大なお祭りが行われていました。
- サトゥルナリア(農神祭):12月中旬に行われた、無礼講で贈り物を交換し合う賑やかなお祭り。
- ソル・インウィクトゥス(不敗の太陽神)の誕生日:12月25日。冬至を過ぎて再び太陽の力が強まり始めることを祝う日。
教会は、この「太陽が復活する日」と、「世の光」であるイエス・キリストの誕生を重ね合わせ、12月25日を降誕祭(クリスマス)に定めたと考えられています。 もともとあった異教のお祭りをキリスト教の祝日に置き換えることで、多くの人々が受け入れやすいようにしたという背景があったようです。
世界最古のクリスマスの記録
歴史的な記録としては、西暦336年のローマの暦(フィロカルスの暦)に、12月25日にキリストの誕生を祝ったという記述が残っており、これが最古の記録とされています。
その後、4世紀から5世紀にかけて、西方の教会を中心に12月25日がクリスマスとして定着していきました。つまり、クリスマスはキリスト教の伝統と、古代の人々の季節感(冬至のお祝い)がミックスされて生まれた行事なのです。
サンタクロースやツリーはいつから? 欧米での歴史と変遷

サンタクロースのモデルは聖ニコラウス
サンタクロースのモデルとなったのは、3~4世紀頃に実在したキリスト教の聖職者、聖ニコラウスです。 彼は貧しい人々を助け、特に子供たちに贈り物をする慈善家として知られていました。
この聖ニコラウスの伝説がオランダに伝わり、「シンタクラース」と呼ばれるようになります。その後、オランダからの移民によってアメリカに伝わり、英語読みの「サンタクロース」へと変化しました。
かつては「どんちゃん騒ぎ」のお祭りだった
意外かもしれませんが、中世ヨーロッパのクリスマスは、今の静かで厳かなイメージとはかなり違っていました。 当時のクリスマスは、お酒を飲んで大騒ぎする「無礼講」のカーニバルのようなものでした。
これが現在のような「家族中心の温かい休日」へと変わったのは、19世紀(ヴィクトリア朝時代)のことです。産業革命後の社会変化の中で、チャールズ・ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』などが影響し、「家庭の団らん」や「慈善(チャリティ)」を大切にするイベントへと再構築されていったのです。
ちなみにクリスマスツリーも、19世紀にドイツからイギリス王室に持ち込まれ、そこから世界中に広まった比較的新しい習慣です。
コトクマ昔はハメを外して騒ぐ日だったなんて驚きですね。今の「アットホームなクリスマス」は、ここ200年ほどで育まれた「新しい伝統」だったのです。
なぜ日本人はチキンを食べるの? 日本独自のクリスマスの歴史


日本では、クリスマスは宗教行事というより「楽しい季節のイベント」として定着しています。日本独自のクリスマスの歴史を紐解いてみましょう。
禁教令を乗り越えて定着
日本に初めてクリスマスが伝わったのは戦国時代(1552年頃)ですが、その後の禁教令によって約250年間も禁止されていました。
明治時代になって解禁されると、明治屋や百貨店などがクリスマス商戦を展開し始め、昭和初期にはモダンな都市文化として一部で楽しまれるようになりました。しかし、一般家庭に広く定着したのは、戦後の高度経済成長期以降のことです。
「クリスマスにはケンタッキー」の謎
海外の人が驚く日本独自の習慣といえば、「クリスマスにKFC(ケンタッキーフライドチキン)を食べる」ことでしょう。 欧米では七面鳥(ターキー)やローストビーフを食べるのが一般的ですが、なぜ日本ではフライドチキンなのでしょうか?
きっかけは1974年のKFCのキャンペーンでした。「クリスマスにはケンタッキー」というキャッチコピーで、当時日本では手に入りにくかった七面鳥の代わりに、手軽なフライドチキンを「聖夜のご馳走」として提案したのです。 この戦略が大成功し、今では毎年数百万世帯がチキンを食べる国民的行事となりました。
恋人たちのロマンチックな一日へ
また、日本ではクリスマス(特にイブ)は「恋人たちが過ごす日」というイメージが強いのも特徴です。 欧米では家族と家で過ごすのが基本ですが、日本ではバレンタインデーのような「デートの日」として独自の進化を遂げました。
1980年代~90年代のトレンディドラマやポップス(山下達郎さんの曲など)の影響もあり、高級レストランで食事をして、イルミネーションを見るというのが「理想のクリスマス」として定着したのです。



宗教色が薄い分、日本らしく「お祭り」として自由にアレンジされているのが面白いですね。苺のショートケーキを食べるのも、日本発祥の素敵な文化です。
【Q&A】クリスマスの意味に関するよくある質問
最後に、クリスマスの意味や期間について、よくある疑問にQ&A形式でお答えします。
Q1. クリスマスの本当の期間はいつからいつまでですか?
A. 12月25日から1月5日(または6日)までの12日間です。 一般的にクリスマスというと25日で終わりのイメージですが、キリスト教の暦では12月25日から、東方の三賢者がイエスを訪ねたとされる「公現祭(エピファニー)」の前日(1月5日または6日)までを「降誕節(Christmastide)」と呼び、お祝いの期間としています。海外で年明けまでツリーが飾られているのはこのためです。
Q2. イブ(12月24日)は「前夜祭」という意味ですか?
A. 正確には「クリスマスの晩(Evening)」という意味です。 「Eve(イブ)」は「Evening(晩)」の古語や短縮形です。 昔の教会暦(ユダヤ暦の影響)では、「一日の始まりは日没から」と考えられていました。つまり、12月24日の日没の時点で、すでに日付は「12月25日(クリスマス)」になっていたのです。 そのため、24日の夜は「クリスマスの始まりの夜」として重要視されました。「前夜祭」というよりは「クリスマスの当日の夜(始まり)」と捉えるのが本来の意味に近いでしょう。
Q3. 1月7日にクリスマスを祝う国があるって本当?
A. 本当です。ロシアなどが該当します。 ロシア正教会やエチオピア正教会などでは、現在世界中で使われている「グレゴリオ暦」ではなく、古い「ユリウス暦」というカレンダーを宗教行事に使っています。この暦での12月25日が、現在のカレンダーの1月7日にあたるため、この日にクリスマスを祝います。
Q4. かつてクリスマスが禁止されたことがある?
A. はい、あります。 17世紀のイギリス(清教徒革命時)やアメリカのニューイングランド地方では、厳格なプロテスタント(清教徒)によってクリスマスが禁止された時期がありました。「聖書に記述がない」「異教の祭りの影響がある」「どんちゃん騒ぎは不謹慎だ」といった理由から、お祝いすること自体が法律で禁じられていたのです。
まとめ
クリスマスは、単なるイベントではなく、長い歴史の中で様々な文化や信仰が重なり合ってできた特別な日です。
- 言葉の意味:「キリストのミサ」として、神の愛と奇跡を祝う日。
- 歴史の変遷:冬至の祭りを取り込み、時代とともに「騒ぐ祭り」から「家族の絆を深める日」へと変化してきました。
- 日本の文化:戦後の復興や商業的な工夫の中で、チキンやケーキを楽しむ独自の「ハッピーなイベント」として育まれました。
本来の宗教的な意味を噛みしめるもよし、日本流にチキンやケーキを楽しむもよし。 今年のクリスマスは、こうした歴史や由来を話題にしながら、大切な人と温かい時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

